陸上移動無線では、VHF と UHF 帯で長くアナログ FMが音声搬送の主流であった。搬送波の瞬時周波数が音声信号に応じて偏移し、受信機は周波数弁別によって音声を復元する。AM と比べて、FM は一般的な携帯機出力の条件で静電気や一部のパルス性妨害に対して主観的に「きれい」に聞こえやすく、実装技術も成熟していたため、アナログトランシーバーの主流になった。チャネル帯域は歴史的には 25 kHz が一般的だったが、周波数逼迫に伴って 12.5 kHz、さらにそれ以下へ狭帯域化が進んだ。帯域が狭いほどフィルタ特性や周波数安定度への要求は高まるが、同一帯域内により多くの業務チャネルを収容できる。

スケルチは、有効信号がないとき受信音声を閉じ、常時ノイズが聞こえるのを防ぐ。しきい値が低すぎると誤開放が増え、高すぎると弱信号を取り逃す。多くのシステムでは、CTCSS(連続トーンスケルチ)DCS(デジタルコードスケルチ) を、同一周波数で複数グループを運用する際の「選択開放」手段として用いる。送信側がサブオーディオトーンやデータコードを重畳し、受信側は一致するコードを検出したときだけ音声を開くため、無関係な利用者による可聴妨害を減らせる。口語では「サブトーン」と呼ばれるが、実際には付加信号であって暗号化ではない。同一周波数上で第三者が同じサブトーンを使えば受信できる。スケルチやサブトーンの挙動は機器実装に依存し、メーカーごとにメニュー名が多少異なる。

デジタル化の動機は、まず周波数効率と業務機能拡張にある。同じ、あるいはより狭いチャネル間隔で、ボコーダとチャネル符号化により、一定の誤り条件下で了解可能な音声を維持しつつ、低速データ、たとえば短文メッセージ、ステータス、位置情報を収容できる。次に、ネットワーク管理とセキュリティへの要求が高まり、デジタルフレーム構造には端末 ID、グループ番号、優先度、暗号化フラグなどを載せやすくなった。そのためディスパッチや録音システムと統一的な意味づけで接続しやすい。さらに、耐干渉性と誤り訂正は、インタリーブと冗長ビットによってフェージング環境での可用性を改善できる。ただし極端な弱電界では、デジタル音声に「金属音」や欠落が現れ、アナログの徐々にノイズが増える挙動とは違う体験になる。

代表的なデジタル専用無線方式の多くは、標準化団体や業界連合によって定義されている。DMR(Digital Mobile Radio) は ETSI による規格で、Tier I/II/III を持ち、免許不要の近距離機器から多基地局 IP 相互接続まで広いエコシステムを形成している。商用・工商業市場で広く利用される。dPMR も ETSI 系だが、より狭いチャネルや低出力文脈で扱われることが多く、欧州の個人向け・軽商用機器で見かける。NXDN はメーカーと連合によって推進され、FDMA 狭帯域構造を採り、一部地域では IDAS などの商品名と結び付いている。P25 は TIA や APCO などが推進し、北米公共安全の相互運用を重視して段階的進化と後方互換性を志向する。TETRA は ETSI の TDMA 方式で、欧州の公共安全、鉄道、空港で長期運用されている。どの方式でも、通常モード、トランキング、暗号化オプション、相互運用認証が内部に複数存在するため、調達時には「デジタル無線」の四文字だけで同一視せず、具体的なモードとベンダーの相互運用宣言を確認する必要がある。

アナログであれデジタルであれ、半二重 PTT は依然として人間と無線機の中心的なインターフェースである。送信ボタンを押すとチャネルまたはタイムスロットを占有し、離すと他者が発話できる。デジタル方式では、発話権管理、優先制御、複数グループの論理化を重ねても、利用体験自体は「押して話す」のまま保てる。セルラーまたはインターネットベースの PTT は、メディアと信令をパケット網に載せるもので、エアインターフェースはもはや狭帯域 FM や専用無線 TDMA ではない。方式としての議論は第5巻に譲り、本巻では RF 専用無線と IP ベース業務の境界だけを示す。

波形、フレーム構造、試験限度の詳細は、ETSI、TIA、ITU などの正式標準と機器認証条件に従うこと。本稿は概念地図の提示にとどまる。

チャネル間隔と相互変調

チャネル間隔は、隣接周波数上で同時に運用できる業務数を左右し、送信帯域と受信中間周波フィルタ設計も制約する。間隔が狭すぎると、フィルタの矩形係数が不足した場合に隣接チャネル漏れや相互変調生成物が隣接ユーザーへ干渉する。特にレピータや高所サイトでは顕著である。実務では、キャビティフィルタ、デュプレクサ、アンテナ分離で結合を抑える。ユーザー側は、勝手な終段追加や粗悪アンテナで認証済み放射特性を壊さないようにする必要がある。多チャネルを同一鉄塔に載せる場合、周波数計画と機械レイアウトはネットワーク設計の仕事であり、単体携帯機だけでは解決できない。

アナログ FM とスケルチ動作

都市の電磁環境では、アナログチャネルはしばしば相互変調、工業雑音、同一周波数利用者にさらされる。FM 受信は強電界では明瞭に聞こえ、弱電界ではノイズが徐々に音声を埋めていく。スケルチしきい値は「いつ誰かが話しているとみなすか」を決める。実運用では、受信レベルとサブトーン検出を組み合わせ、レピータが長時間ノイズで開きっぱなしになるのを防ぐ。利用者が「もっと遠くまで聞く」ためにスケルチを切ると、背景ノイズも同時に増えるため、了解度と疲労感のバランスが必要になる。

デジタル化後の階層構造

デジタル無線では、ビット列がフレームやタイムスロットに組織され、物理層の上に論理チャネルや業務チャネルの概念が乗る。端末プログラミングで使う「カラーコード、タイムスロット、グループ番号」といった値は、標準で定義されたアクセス規則とアドレッシングに対応しており、同一周波数点を複数グループで共有できる。ネットワーク側では、呼設定、解放、故障コードを記録でき、保守運用や事故後分析の基礎になる。これはアナログ網では体系化しにくい能力である。

専用無線システム進化との関係

アナログトランキングからデジタルトランキングへ移行する動機、すなわち周波数効率、データ機能、セキュリティについては、第1巻の史的整理が制度と産業の文脈から説明している。本巻で補うのは、エアインターフェース側でそれらの要求を各方式がどう担うかである。実プロジェクトの選定では、方式は顧客が既に持つ基地局、録音、指揮システムと一体で考え、端末単価だけを比べないことが重要である。

相互接続とプログラミング語彙

「同じデジタル方式」であっても「差してすぐ使える」とは限らない。相互接続には、同一の周波数計画、カラーコードまたはネットワーク識別、グループアドレス、暗号ポリシーが必要であり、トランキングでは登録、ローミング、通話権限も絡む。プログラミングソフトのチャネル表は、標準で定義された論理チャネルへの写像の表層にすぎない。ブランドをまたぐ相互接続は IOP やベンダー宣言に依拠することが多いが、導入前に現地で音声・データ業務のサンプル試験を行うのが望ましい。アナログ側は比較的直感的に見えても、同一周波数、同一サブトーン、互換帯域幅が揃っていなければ、聞こえるのにスケルチが開かない、あるいは音質が悪化することがある。

参考資料

送信周波数、出力、機器種別は、利用国の無線規制と型式認証に従うこと。